◆概要
「モスクワは涙を信じない」(1982、原題 Москва Слезам Не Верит)は1979年にソ連で製作された映画で、監督はウラジーミル=メニショフ。1980年度のアカデミー外国語映画賞を受賞しており、今日のロシアでも老若男女を問わず、多くの人が知っている当時のソ連を代表する映画。
◆あらすじ
舞台は1950年代後半から1970年代後半にかけてのモスクワ。作品描写の中で中心になっているのは、エカテリーナ(カーチャ)という女性の半生。物語は努力家の彼女が大学の入学試験に受からず落ち込んで帰ってくるシーンから始まる。どうしても大学に行きたいがために、工場で働きながら受験勉強にも精を出していたのだが、ある時ひょんなことからインテリばかりが集まるパーティでルドルフという男と知り合いになり、結ばれてしまう。しがない工場労働者として働く彼女が魅力を感じられない存在であったのか、自分が子どもを身ごもらせておきながら、ルドルフはカーチャを見捨て、一方で彼女は子どものためにも大学に行く夢を諦め、仕事により一生懸命に励むようになるというのが前半のあらすじ。
後半は映画の中で20年の時が流れてから始まる。ゴーシャという男性との出会いが、彼女にとっての人生で二度目の転機となるわけだが、ここでもやはり途中、幾多の障害が立ちはだかる。最終的には二人は結ばれるのだが、前半同様、なぜだか最後まで目が離せないストーリー構成となっている。
◆見どころ
この時代のソ連には「強い女性像」を描き出そうとする動きがいろんな分野で見られており、それを大きく反映しているものの一つがこの映画なのではないかと思います。最も象徴的なのは自分を捨てたルドルフに再会したときのカーチャのセリフ、「人生は40歳から始まる」でしょう。大学進学を目指して日々勉強をしてきたカーチャ。方や仕事をすることも忘れず、その仕事が自分にとって世間体のよくないもの、という理由なだけで好きな人に捨てられてしまい、一人で出産と子育てに励んだ彼女。後に工場長にまで上り詰めているところをみると、まるで成功談のように見えるかもしれませんが、そこまで到達するために、彼女は自分の最大の目標を犠牲にせざるを得なかったはずです。それらを経験してきた上で彼女はこう言うのです。「今までのことは何も無駄ではなかった。だから人生は40歳から始まるのだ」と。今や娘は成人していますし、これからは彼女だって自分の道を好きに生きる権利が与えられたわけです。人生に一度失敗してしまっているからこそ、人生を更に賢く生きられるようになるのです。
でもなかなかここまで普通の女性が言い切れるものかと言われれば、決してそんなことはないでしょう…。だからこそ、カーチャのこの発言は彼女がいかに成長し、強くなったのかということを象徴していますし、また当時のソ連人女性の憧れの姿になったことも納得できますね。今でも十分かっこいいなあと私は思いますが( ;∀;)
◆まとめ
いかがでしたか?
今回はソ連レトロ映画から見る、「強い女性像」について紹介させていただきました。この映画の舞台である50年代は冷戦真っただ中だったのもあり、社会的にも男性だけでなく女性も強い人格者であることを求められたのではないかと思います。もしかしたらそうした動きの中で生まれた作品なのかもしれませんが、なかなか魅力的です。ストーリー自体は実にシンプルですが、その分共感や憧れを引き起こさせられます。なかなか日本では流通していないソ連映画ですがこれを機に是非見ていただけたらいいなと思います!