2018.05.12公開『狐狼の血』短評

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©︎「孤狼の血」製作委員会

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『仁義なき戦い』シリーズに代表される、かつての、東映実録路線に強い影響を受けたと公言している柚月裕子の日本推理作家協会賞受賞作『狐狼の血』が豪華キャストで映画化。

呉市がモデルになっている広島の架空の都市呉原市を舞台に原作小説以上にドライなタッチで、バイオレンスとエロスに満ち満ちた映画となった。またタイムリミットサスペンスとしての見どころもある。

監督は『日本で一番悪いやつら』『凶悪』の白石和彌。世界観を象徴するホステス同伴試写会が行われたことも話題に。

ストーリー

1974年、広島の港町呉原市を舞台に地元の尾谷組と広島市を地盤にする五十子会の間で抗争が勃発、後に第三次広島抗争と呼ばれるこの構想は尾谷組組長の逮捕と五十子会幹部の死で痛み分けとなった。

それから約15年後、1988年。呉原金融の経理士が行方不明になる事件が起きる。

呉原金融は五十子会の下部組織の加古村組のフロント組織。その加古村組と組長不在の尾谷組の間では緊張感が高まっていた。

呉原東署のマル暴の刑事大上(通称ガミさん)と県警本部から異動してきた若手刑事日岡はこの経理士行方不明事件から抗争つぶしを狙う。

大上は日岡を連れて尾高組を訪ねる。そこには組長不在の穴を埋める若頭一ノ瀬がいた。

五十子・加古村の挑発が続く中、一ノ瀬は若手の暴走を抑えるのにも限度があると大上に語る。呉原の闇の社交場、高木里佳子がママを務めるクラブ梨子で偶然にも大上と五十子・加古村がであう。表向きは全くの偶然と語る五十子・加古村だが、呉原再進出に本腰を入れてきたことが明らかだった。

大上は五十子会系の右翼団体代表の瀧井から情報を得る。瀧井は五十子会系の人物だったが大上とは古い中で情報のやり取りをしていた。

そこから呉原金融の経理士の上早稲拉致の情報を得る。その証拠集めに向かう大上は日岡が止めるのも聞かずに放火・窃盗・違法侵入などの多くの違法捜査をして証拠を得る。

ダーティーな噂の絶えない大上。実は日岡は大上の内偵を本部の監察官から言い渡されていたのだった…。そんな中、尾谷組の若手構成員が加古村組の手によって命を落とす。報復として尾谷組が加古村組事務所に発砲。抗争が本格化する。

“東映じゃけぇなにしてもええんじゃ”

時代的な事情もあってかいつの間にかやくざ映画・任侠映画というものが作られなくなっていた。一時期は哀川翔・竹内力の二大巨頭によるVシネマ(Vシネマは一般名称ではなく、東映ビデオの登録商標)が主戦場となっていたものの、ビデオソフト販売・レンタル市場の縮小によってその場も失われていきました。

ジャンルをけん引していった老舗大手映画東映もまたもう作ることはできないのだろうと思っていた。

ところが、それを横目にワーナー・ブラザースジャパン制作で北野武監督が『アウトレイジ』三部作を発表して大ヒットさせた。

この流れをみて“なんでこの映画を東映が作れないんだ”と再認識。東映任侠&実録映画路線の強い影響を受けたことを公言していた柚月裕子の『狐狼の血』の映画化に手を挙げた。

複数の映画会社との映画化権争奪戦の中で、“東映が作らなくてはいけない映画ここにある”とした熱意と原作者の原体験が上手く交わり、ついに映画化された。

原作にあった警察とヤクザ、警察同士などウェットな部分は映画では大きく削り、より観客を突き放し、感情移入をたやすくさせないギラギラした映画となった。

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村松健太郎 脳梗塞と付き合いも10年以上となった映画文筆家。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝、に携わる一方で、個人でも各種記事の執筆、トークショーなどの活動も、。

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