◆あらすじ
「八日目の蝉」の原作で知られる角田光代が筆を執った作品。銀行勤めをしていたごくごく平凡な主婦の梅澤梨花(宮沢りえ)が引き起こした、巨額の横領事件を発端に狂っていく彼女の生きざまを描いた壮大な物語である。
仕事に対する熱意ある姿勢から上司や顧客から信頼されていた彼女は、一方で自分に無関心な夫との関係に虚しさを抱いていた。そんな中、偶然にも知り合ってしまった年下の大学生・光太(池松壮亮)との不倫関係が始まったことを皮切りに彼女の倫理観はねじ曲がっていく。「後で返せば良い。」そんな短絡的な思考からたまたま所持していた顧客の1万円札を使用したことが、よもやあんな展開になろうとは…。人間が持つ欲望や闇をはっきりと、えげつないほど描写しているのがこの作品の恐ろしく、ある意味美しいとも言えるところである。
◆キャスト
・梅澤梨花…宮沢りえ(中学生時代:平祐奈)
・平林光太…池松壮亮
・相川恵子…大島優子
・梅澤正文…田辺誠一
◆ザックリ抉られる。人間の「汚いところ」を描き出した作品
タイトルにもあるように、はっきり言ってかなり後味が悪い作品であることは保証します(笑)作品の中では横領や不倫といった、現実では倫理観を疑われるような内容が繰り返し登場しています。これはしてはいけないことと、頭の中ではわかっているし、自らもする気はない。だけどなぜかしら他人事とは思えないほどの切迫感と緊張感、また共感を覚えさせられる。そして見終わった後のこのモヤモヤの原因は何なのか。普通ならダメダメなストーリーの作品がここまで心に残り続けるでしょうか?
そのモヤモヤの原因は間違いなくそこに同意できる何かにあると思います。ストーリーを思い出していただくと、この糸のもつれは夫との関係、もっと言えば最も基本的な人間の愛し愛されるという行動を否定することから始まっていました。理屈では説明できませんが、女性にとってこれはかなり共感できる大きなポイントの一つになったのではないでしょうか。愛されるために何度も足を踏み外してしまう梨花。彼女の行動は極端ですが、一方でかなり「愛されたい女性」の象徴なような気がしてなりませんでした。
また「紙の月」という作品のタイトルも、絶対に存在していると信じているものが、実はかなりおぼろげで不安定なものだったと解釈できるように、非常に人間の儚さや危うさを表している気がします。実際にそうした意味でつけられたのでしょうが、ここまでぴったりくるのもすごいですよね…。
いかがでしたか?
今回は宮沢りえさん主演の「紙の月」のレビューをさせていただきました。
映画のタイトルを初めて見た時に何となくはかなさを感じたのですが、鑑賞後もやっぱり何だか苦いものを感じさせる映画でした。後味が悪いことは間違いないですが、この作品の中で問われている意味を今一度自分自身に問い直してみるのはすごく感慨深いことだと思いました。興味があれば是非一度、ご鑑賞ください!