2018.09.07公開 『累』短評

©︎2018 映画「累」製作委員会 ©︎松浦だるま/講談社

松浦だるまの『累』を土屋太鳳&芳根京子のNHK連続テレビ小説のヒロインがW主演で映画化。

二人を繋げる男・羽生田に浅野忠信。共演に横山裕、檀れい、村井國夫。

美醜という強烈なテーマに演劇というものを大胆に絡めた女の情念の物語。

チェーホフの『かもめ』、オスカーワイルドの『サロメ』という劇中劇にも注目。

あらすじ

淵累(ふちかさね)は大女優の渕澄世を母に持ちながらも顔に大きな傷を持ち強いコンプレックスの中で生きてきました。

母の13回忌の法要の席で、かつて澄世と親しかったという羽生田という男から声をかけられます。羽生田は澄世から遺されたある口紅の秘密を知っている男とでした。

その口紅を塗って、口づけを交わすと12時間顔が入れかわる

そのことを知っていた羽生田は累にある女優を引き合わせる。それが圧倒的な美貌を誇る丹沢ニナだった。ニナはある事情から女優業に支障が出ていてることを伝えます。

羽生田は累の中に人にある、コンプレックスから来ている自分を認めてもらいたいという欲求、衆人環視の中で演技をしたいという欲求があることを見ぬき、ニナとの入れ替えを持ち掛けます。ニナは羽生田に向かって累をその容貌から化け物と言ってのけ自身が女優としての階段を上るために利用するだけだと言います。

それでも、自身の執念のような欲求に勝てなかった累はこの条件を飲みます。

こうして丹沢ニナという絶世の美貌と累という圧倒的な演技力を持った一人の女優丹沢ニナが誕生しました。それからニナは女優としてのノウハウを累に叩きこみ始めます。そして顔の交換は午前の9時から午後の9時までの12時間とすることになりました。

累=ニナがまず目指したのが新進気鋭の舞台演出家烏合によるチェーホフの『かもめ』。

オーディションの場でそれまで内側にため込んでいた思いを爆発させた累=ニナは見事、ヒロインの座を射止めました。

舞台稽古の中でも累=ニナという複雑な内面に惹かれる烏合はやがて一人の女性として累=ニナに魅力を感じ始めます。

一気に距離が近づく累=ニナと烏合に本当のニナは嫉妬の炎を燃やします。もともとニナが烏合の舞台にこだわったのもニナ自身が学生時代から烏合に惹かれていたからでした。

演劇雑誌などで2ショットを披露する烏合とニナの顔をした累の姿を累の顔をしたままで読むニナ。さらに、累がニナに秘密で烏合と一夜を過ごすことになったと知ると累からニナの顔を奪い取り烏合との一夜は自分のものにしようとします。

翌朝、秘密の協力関係を解消を宣言した累とニナ。しかし、その直後に・・・。

取り上げられた戯曲の意味に

まとめ

原作の丹沢ニナパートを拡大した映画版には印象的な戯曲が劇中劇の演目として登場するチェーホフの『かもめ』とオスカー・ワイルドの『サロメ』。前者では累=ニナは女優に憧れるニーナという女性を、後者ではすべてを欲しようとするサロメという女性を演じている。どちらも、劇中での累=ニナの心情や世の中での立ち位置を分かり易くディフォルメする形で登場している。ニーナに至っては丹沢ニナの名前とかぶせてきている。

舞台パートが大きいので映画の中でのバランスが崩れかけている部分もあるものの、累=ニナの執念のようなものを浮き彫りにするにはうってつけの演出になっている。

元々主人公の名前を逆さに読めば累(ヶ)淵になる。これは女の情念がやがて怨霊となっていく怪談噺のクラシック。異常なまで膨れ上がる女の情念を堪能したい一作。

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村松健太郎 脳梗塞と付き合いも10年以上となった映画文筆家。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝、に携わる一方で、個人でも各種記事の執筆、トークショーなどの活動も、。

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